■このまま訪問介護は続けられるの?
■政府が行っている対策
長寿社会開発センターが2024年5月に実施した調査で、訪問介護職員の約7割(67%)が「意欲が低下した」と回答し、さらに81%が「報酬改定に納得できない」と答えました。背景には、介護報酬の基本部分がマイナス改定された一方で、実際に職員に届く「加算」は取得・分配までに時間もコストもかかるという制度の矛盾があります。
訪問介護の現場からは「もう続けられない」「心が折れた」といった声が相次ぎ、離職、倒産、サービス縮小の悪循環が始まっています。
数字では見えない、“心が折れる瞬間”
正直、この調査結果はショックというより「やっぱりな」という思いでした。
訪問介護は、たった一人でご利用者様の家を訪れ、生活の隅々に寄り添う仕事。支援内容は排泄や入浴だけでなく、孤独の緩和や生きがいの回復にも関わる、まさに“生活の全部”を支えるものです。
なのに、今回の基本報酬は平均▲2%のマイナス改定。一方で「加算を取ればトータルでプラス」と厚労省は説明しましたが、実態は違います。
- 加算は申請しても、現金化に3〜4か月かかる
- 要件が厳しく、研修・計画書・職員配置などの負担が増大
- 加算を取っても、本体の減収分を埋めるだけで手元には残らない
これでは、報酬の“増”どころか、「紙とシステムの二重入力が増えて、実質減収」という管理者の嘆きも当然です。現場は疲れ果てています。
壊れ始めた“在宅介護”の足元
調査結果では、64%が「訪問介護に将来性を感じない」と回答しています。
こうしたモチベーションの低下は、単なる感情問題ではなく、介護体制の崩壊につながります。
- 「社会に必要な仕事なのに評価されない」という精神的ストレス
- 「ボーナスカット」「夜勤シフト増」といった経済的負荷
- 「研修は自己負担」「資格講座は休日返上」といった成長機会の欠如
こうして職員が去っていき、東京商工リサーチによれば、2024年度上半期の訪問介護事業所の倒産件数は前年より45%増加。
その結果、訪問回数の削減 → 利用者の在宅生活困難 → 特養の待機列長期化、という連鎖が現実化しつつあります。
支援が届かないことで、家族も壊れる
今、家庭内に介護の負担がのしかかっています。
「ヘルパーの訪問が減らされたので、在宅勤務の私が代わりにやります」
そんなご家族からの相談を、実際に耳にする機会が増えています。
このままでは、“ビジネスケアラー”=仕事をしながら親の介護をする現役世代が爆発的に増えるでしょう。
厚労省の推計では、2025年には326万人がビジネスケアラーとなり、経済への影響は年間9兆円規模とも言われています。
介護を支える人がいなくなれば、働く世代も、経済も立ち行かなくなる。それが今、目の前で起きています。
現場が本当に望んでいる支援とは?
調査では、現場から以下のような支援ニーズが挙げられています。
支援ニーズ | 内容 | 期待される効果 |
① 安定財源 | 基本報酬の再引き上げ、自治体ごとの緊急交付金 | 倒産リスクの抑制、現場の安定化 |
② 事務簡素化 | e-LTCなど介護記録の一本化、AI記録の導入補助 | ケア時間の増加、職員負担の軽減 |
③ キャリアと賃金の直結 | 処遇改善加算を職員に直接給付、国家資格で月+5,000円加算 | 賃金の見える化による定着率の向上 |
加算頼みの“先に引いて後で足す”制度ではなく、最初から足す仕組みが求められています。
「費用」ではなく「未来への投資」へ
国は「在宅重視」と言いながら、現実では“在宅支援の根幹”である訪問介護が削られています。
これでは本末転倒です。
いまこそ必要なのは、“減点方式”ではなく、“未来への投資”として介護を扱うこと。
そのためには、
- 基本報酬を下げずに「ゼロベース+加算」へ制度を見直す
- 小規模事業所に経営支援員を配置し、ITや財務、人事まで伴走支援
- 外国人職員の生活・日本語支援体制の整備
- 「ケアの成果」をデータで見える化し、社会全体に価値を示す
こうした政策転換が求められています。
今回の調査が示したのは、単なる数字ではありません。
それは、「これ以上はもう耐えられない」という、現場の悲鳴です。
介護業界に関わる我々にできることは、
- データとストーリーで“今”を社会に伝えること
- 変革の芽を見つけて、仲間と共有すること
- 利用者や家族とともに「ケアの価値」を可視化していくこと
介護は“費用”ではなく、“未来を守る投資”です。そのことを、私たちはあきらめずに、伝え続けていきましょう。声を上げることでしか、未来は変わりません。