介護職の給料・訪問介護を守る法案、なぜ国会で審議されないのか?

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訪問介護の報酬減で何が起きているの?
今後も訪問介護は続けられるの?
政府はどんな対策をしているの?

実は今、介護職員にとって、とても大切な二つの法案が国会で話し合ってもらえないままになっています。今日は、その二つの法案がどんなものなのか、そして今、どうなっているのかを、皆さんに分かりやすくお伝えしたいと思います。

お給料を上げる「介護・障害福祉従事者処遇改善法案」

まず一つ目は、介護職員や、障害のある方を支援する職員のお給料を良くするための法案です。正式名称は「介護・障害福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案」ですが、通称として「介護・障害福祉従事者処遇改善法案」と呼ばれています。

どんな内容なの?

この法案の目的は、介護・障害福祉事業所で働く人たちが安心して働き続けられるように、そしてもっとたくさんの人たちがこれらの仕事に来てくれるようにすることです。具体的には、介護や障害福祉の仕事をしている人たちの賃金改善を目的としています。
具体的には、次のようなことが書いてあります。

お給料を上げてほしい!

この法案は、介護職員や障害福祉の全ての職員に対して、月額1万円の処遇改善を行うための助成金を支給する内容です。

「全ての職員」とは、介護・障害福祉のサービスに直接従事する職員だけでなく、事務職員や栄養士さんなど、事業所で働くその他の従業員も含まれます。助成金の支給は都道府県知事が行い、できる限り速やかに行われるよう政府が措置を講じることとされています。

また、国や都道府県が運営する介護・障害福祉事業所で働く職員の給与改善についても、国が必要な措置や財政上の措置を講じることになっています。

他の仕事と同じくらいのお給料にしてほしい!

月1万円の引き上げだけでは十分とは考えておらず、将来的には、介護・障害福祉従事者等の賃金水準を他の一般的な仕事の賃金水準の平均と同じ程度にするための方策について検討し、必要な措置を講じるという条文も盛り込まれています。

厚生労働大臣は、介護報酬や障害福祉サービス等報酬の基準を定める際に、小さな事業所の安定的なサービス提供や、介護・障害福祉従事者の将来にわたる職業生活の安定と離職防止に配慮するよう定めています。

なぜ、この法案が必要なの?

実は、介護職員や障害福祉の職員のお給料は、他のたくさんの仕事と比べると、全産業平均より約7万円も低いのが現状です。

介護の仕事は、要介護者や障害者が自立した生活を送れるように支え、家族が介護のために仕事を辞めなくて済むように負担を減らすなど、とても重要な役割を担っています。しかし、身体的にも精神的にも大変なことも多いのに、お給料が低いせいで、ますます人手不足が深刻になっています。

最近、他の会社ではお給料が上がる動きがあるのに、このままでは介護・障害福祉分野からの更なる人材の流出は避けられません。政府も少しはお給料を上げる対策として、令和6年度の介護報酬改定でベースアップにつながる加算率の引き上げなどを行ったとしていますが、それでも全産業平均との賃金の差を埋めるには全く不十分だとされています。

だからこそ、立憲民主党が、日本維新の会や国民民主党と共同で、昨年4月に続いてこの大切な法案を国会に再提出してくれたのです。この法案が通れば、年間で約4,230億円のお金が必要だと見込まれています。

訪問介護のピンチを救う「訪問介護緊急支援法案」

もう一つは、皆さんのご自宅に介護士が伺って生活を支える「訪問介護」というサービスを守るための法案です。通称は「訪問介護緊急支援法案」といいます。

どんな内容なの?

この法案は、令和6年度の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられたことにより、訪問介護事業者の経営や介護従事者の処遇に深刻な影響が出ている状況を鑑みて、訪問介護事業者に対する緊急の支援を行うことを目的としています。
具体的には、次のようなことが書いてあります。

緊急のお金を支給してほしい!

国が、訪問介護の会社に「訪問介護事業支援金」というお金を急いで支給してほしい、という内容です。この支援金は、令和5年度の訪問介護の基本報酬部分に係る保険給付費を元に、基本報酬の引き下げ率(約2.4%)に相当する金額に加え、介護報酬全体の改定率(1.59%)に相当する金額を上乗せした額が想定されており、約357億円(または約344億円)くらいが必要だとされています。

この支援金は、差し押さえられたり、譲渡したりすることができないように、守られる仕組みも作られています。政府は、この支援金ができる限り速やかに支給されるよう、必要な措置を講じることとされています。

サービスの値段をすぐに上げ直してほしい!

政府は、令和6年度介護報酬改定の施行から3年以内のできる限り早い時期に、訪問介護に係る介護報酬の基準の改正(期中改定)を行うこととされています。

この改定では、訪問介護事業者の事業規模ごとの収支の状況や地域の実情を踏まえ、訪問介護事業者が需要に応じて安定的にサービスを提供できるよう配慮しなければならないとされています。これは、通所介護と同様に「規模別」の介護報酬を導入することも含んでいます。

なぜ、この法案が必要なの?

つい最近、2024年度の介護報酬の改定で、政府は訪問介護のサービスの基本の値段を約2.4%も引き下げてしまいました。この引き下げによって、特に規模の小さい訪問介護の会社が、倒産したり、ますます人が足りなくなったりする事態が加速しています。実際に、東京商工リサーチの調査によると、2024年には訪問介護の会社の倒産が81件にも上り、2023年の67件を上回って過去最多となってしまったんです。

このままでは、介護が必要な人が自宅でサービスを受けられなくなったり、その家族が介護のために仕事を辞めざるを得なくなったりする心配があります。介護現場の方の離職、世の中全体の離職が加速するのを防ぐための「緊急支援法案」なのです。

だから、立憲民主党と国民民主党が共同で、衆議院の解散に伴って廃案となっていたこの法案を再提出しました。法案提出者は、筆頭提出者の井坂信彦衆院議員をはじめ、山井和則衆院議員、柚木道義衆院議員、中島克仁衆院議員、大河原まさこ衆院議員、早稲田ゆき衆院議員、森田俊和衆院議員、道下大樹衆院議員、大塚小百合衆院議員などが名を連ねています。

なぜ、現場の願いが詰まった二つの法案が話し合われないの?

このように、介護の現場にとって本当に大切な二つの法案は、今年の1月に国会に提出されてから、半年近くも全く話し合われることなく、国会の会期が終わってしまって、今は「閉会中審査」という、また次の機会に話し合われるかもしれない、という状態になっています。

二つの法案に必要な助成金や補助金を合わせると、年間で4,500億円以上のお金が必要だと試算されています。一方、与党である自民党は、皆さんに「国民一人あたり一律2万円」のお金を配るという公約を掲げています。これには3兆円ものお金が必要だと言われています。

この話を聞くと、本当に複雑な気持ちになります。

「3兆円のお金が出せるのに、なぜ介護現場への4,500億円は後回しなんだろう?」

と、思いますよね。

もちろん、物価が高くなって皆さんの生活が大変な中で、2万円や4万円のお金がもらえるのは、一時的でもありがたいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。でも、本当に困っている介護の現場への支援が後回しになれば、その先には「お金があっても、必要な介護サービスが受けられない」という、もっと大きな不安が待っているかもしれません。

実際に、介護の現場では、すでにサービス撤退を検討している事業者や、もっとお給料の良い他の仕事に転職しようとしている職員が水面下でかなりの数にのぼっている状況です。中には、特別養護老人ホームが閉鎖されるという悲しいニュースも耳にするようになりました。

政府の「骨太の方針2025」では、介護・医療分野の公定価格の引き上げなどが明記され、物価上昇も考慮するとされています。しかし、これらのビジョンを確信できるだけの具体的な計画は示されておらず、事業者や現場には「先がぼやけた状態」で待ち続ける余裕はありません。

私は、残された時間がもうほとんどないと感じています。介護の現場がこれ以上崩壊しないように、国には、今こそ介護現場への支援を最優先にしてほしいと、心から願っています。

この記事を書いた人
里見理恵

元介護職員→結婚&出産→育児のため離職→ブログ運営開始→介護職員のためのお金と資格と働き方【介護職員情報ナビ-KAIGO JOONAVI-】の中の人。

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